巻頭のことば
第4回 保護者への子育て支援
東京大学院教育学研究科教授 秋田喜代美〔Akita Kiyomi〕
認可保育施設に入れない待機児童が3年連続で増加し、その7割は都市部に集中しているという報道が今年9月にもなされている。1、2歳児の半数が保育施設に入る時代、働きながら子育てをする保護者に対する子育て支援が大事である。子どもの保育だけではなく、保護者が親になっていくこと、母親も父親も子育ての喜びを共に感じながら子育てしていくための支援が求められている。
同様に、家庭で子どもを育てている保護者に対しても、育児の知恵を提供することはとても大切である。平成25年度からの子ども子育て支援制度実施の中では、各自治体の地域子育て支援事業として保護者の支援が位置付けられてきている。ワーキングマザーより家庭で子育てをしている母親の方が子育てへのストレスが高いと言われているが、それは孤立しているからである。まだまだこの支援は十分とは言えない。
一方で保護者も多様化している。モンスターペアレンツの名前で言われることが多いが、実は保育者にとっては子どもへの対応以上に、保護者対応に困っている場合も多い。
筆者は2000年にブックスタート(0歳児検診時、赤ちゃんに絵本を開く体験をプレゼントする)の活動の立ち上げに関わり、それから17年がたった。今では60%弱の自治体で乳児検診の時に、絵本を介して親子の心がふれあい、皆の笑顔があふれる場になっている。「赤ちゃんと絵本をひらく楽しいひとときを分かち合う(share books with you baby)」という理念は、子どもに絵本を読んで聞かせるというよりも親子の絆を深めるために絵本の楽しみを分かち合うという理念である。その理念が広く受け入れられるとともに、地域のボランティアの方もまたこの子育て支援の輪を形成して応援してくださっている。「育メンは読みメンから」と育児の最初に絵本を子どもと共有して楽しむことは父親たちにも広がっている。
また園でもさまざまな工夫が行われている。この頃では保護者に子どもたちがどのような園生活を送っているのかを写真掲示で紹介したり、園便り、クラス便り、HPやLINEなども活用されるようになってきている。子どもにとっても、家庭と園の生活の連続性は、発達上重要である。これは小学校以上とは異なり乳幼児期には生活の安定上大事なことだからである。そのためには、保護者の園への参画意識が求められる。しかしむずかしいのは、園側から見ると、来てほしい保護者にはなかなか来てもらえないという現実がある。保護者が他の保護者とつながっていないと、子どももまた孤立しやすい。社会的資源としてのつながりの貧困が負の連鎖を生み出していく切実な状況が現在ある。
つながり格差は乳幼児期から生まれ、雪だるま的に累積していく。だからこそ早期から、園と保護者がつながることが連携支援の輪を親子共に広げていくための大きな一歩となる。この頃では写真スライドを使って園でのことをわかりやすく楽しく伝える工夫もずいぶん研究されてきている。
保育者の側でも、経験と共に保護者対応の知恵を深めていく。若いうちは自分よりも年上の保護者に対応をしなければならないことも多い。その保育者の気持ちを保護者もまた少しでも察知してくれたらと思う。私の研究室に所属している衛藤真規さんが、保護者への対応の熟達の研究をしている。①保護者の気持ちがわからないので保護者の表面的行動に振り回され、また保護者に伝えたいことが伝わらない時期から、②気持ちを理解しようとして傾聴し気持ちに寄り添えるようになる時期、③保護者の多様性を受け入れ、保護者の課題を共に解決しようとし、行動と気持ちを分けて捉えられるようになる時期へと保育者も変化していくことを示している(衛藤、2015年)。現在は親も保育者も多忙であるがゆえに、相手の状況を想像する心のゆとりを持ちにくい。しかし子どもの生き生きと育つ姿を共有することで、子どもを真ん中にして皆で育ち合う地域のケアリングコミュニティを創っていくセンターとして、園はこれからますます大きな役割を担うようになるだろう。