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書斎の窓

鼎談

シカゴ・ローエコ見聞録

――シカゴ大学夏期セミナーについて(上)

慶應義塾大学法科大学院教授 金山直樹

東北大学大学院法学研究科准教授 得津 晶

青山学院大学経営学部プロジェクト助教 藤森裕美

シカゴ大学コートハウスにて
右より金山,ギンスバーグ教授,得津,藤森

金山 思い起こせば、今から1カ月前、我々はシカゴの「ロー&エコノミクス」のサマーセミナーの最初の1週間が終わる頃を過ごしていました。最初の1週間はとても長く感じられましたが、それくらい中身が濃く、新鮮かつ刺激的だったのだと思います。そこで学んだこと、また感じたことを『書斎の窓』の読者に還元できればということで、本日の座談会となりました。

1 受講動機

金山 まず、最初に、皆さんの受講動機、そして講座情報の入手経路についてお話し下さい。なお、シカゴでは、given nameで呼び合っていましたので、今日もそれでいきましょうか。

得津 私は、昨年参加者の首都大学東京の尾崎悠一先生から、昨年末、このセミナーの話を伺いました。当時は、公私ともに疲弊しておりましたので、とにかく海外に出たいという理由で応募しまた。決して、「シカゴで法と経済学を学びたい」という動機が強かったわけではありません。

金山 でも、それまでにロー・エコの勉強はしていましたよね。

得津 自信を持って言えるわけではありませんが、会社法をやってますと、法と経済学の考えはそれなりに必要ですし、法の経済学分析ワークショップという研究グループにも所属させていただいています。ですので、少なくとも法と経済学アレルギーはなく、軽い気持ちで受講しました。

藤森 私の場合は「法と経済学会」という日本の学会に所属しておりまして、今から2年ほど前に、学会から、このセミナーの案内が来ておりました。シカゴ大学のJoseph Burton教授が日本の「法と経済学」の若手研究者の参加を模索しているとの情報提供が、太田勝造先生からありました、という文面だったと記憶しています。当時、まだ経済学部助手だった私には、レベルが高すぎると思い、躊躇していましたが、昨年も案内が来たので、今年こそはと思ってチャレンジしました。もともとは、法と経済学は専門分野ではありませんでしたが、経済学を10年ほど専攻し、経済学の限界や、法学や法律学の必要性を感じ、また、指導教授の勧めもあり、法と経済学に興味を持ち始めたところでした。昨年は、Asian Law and Economics Associationで学会発表をさせていただきました。それから、講義も「法と経済学」の科目を持っております。それを踏まえたうえでの今回サマーセミナーへの参加となりました。

金山 ヒロミは経済出身なので、シカゴの講義ではやはり法律的なところが難しかったですか。

藤森 おっしゃる通りです。日本の法律に関係するところは文献を読みましたが、シカゴでの授業は、法律と言ってもアメリカ法の話ですので、とくに、その州によって大きく異なる点は難しかったです。

金山 僕は、主体的な動機の一番ない参加者だったと思います。慶應OBに鶴見晃二さんという方がおられます。シカゴLSでLLMを取得した方です(現在、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社代表取締役・弁護士)。この人が、夏期セミナーに慶應からも参加するように、とのリクルート要請をシカゴ大学から受けたようです。その要請に応えるため、慶應ロースクールに寄付金を出して、毎年1名の教員がサマースクールに行けるようにして下さったのです。けれども、今年度は初年度で、誰も手を挙げる人がいませんでした。そこで、僕が、後輩のための現地視察と称して、参加しました。

 僕自身、若い時には、ロー・エコに非常に興味がありましたが、結局は、どちらかというと伝統的な手法を重んじるスタイルの研究者になりました(本誌2009年5月号参照)。でも、ロー・エコには一度は真面目に取り組んでみたいと思っていましたので、本場のシカゴで一体どんなことをやっているのか、興味がありました。

2 学んだこと

 ⑴ Property Law

金山 シカゴでは、2週間で合計4人の教授の講義を聞きました。午前と午後、それぞれ2時間ずつの授業でした。まず、第1週の授業を振り返りたいと思います。午前の部に登場したのが、リー・フェネル(Lee Fennell)教授で、講義名は Housing, Land Use, and the Economics of Property Rightsというものでした。

リー・フェネル教授と金山

 不動産所有権中心の話でしたが、意外と法的な説明は少なくて、ゲーム理論などが中心だったような気がします。たとえば、昔からやっている工場の真横に医者が開業して騒音にクレームをつけた場合の処理とか、変な置物が庭に置かれて住宅地の雰囲気が損なわれないないようにするにはどうすべきかとか、答えがあるようなないような話が多く出ました。

 僕としては、そこで出された「所有権ルール」と「責任ルール」という視角からの分析が印象に残りました。所有権ルールは、所有者の同意がないと、どうしようもなくなる。そして、同意を引き出すためには取引費用がかかる。それに対して、責任ルールは微調整がしやすい。これはなかなか面白いなぁと思いました。この授業は、日本では都市法を勉強している人に一番効用が高いように感じました。

得津 実は、私が一番興味があったのが、このPropertyの授業だったんです。前の在外研究で会社法や契約法は聴講していたのですが、Propertyは聴講していなかったんです。フェネルの授業では捨象されていましたけれども、アメリカの所有権法には永久拘束禁止則のように、日本とは異なるある種の特殊なドグマーティクなところがあるときいていたので、一回勉強してみたかったんです。あと、実は私、2013年の法社会学会で所有権の正当化根拠について経済学的な考え方と自然権的な考え方を調和できるんじゃないかという報告をしまして、そういう問題意識をもっていました。さらに、その背後には、株式会社において株主を所有者だという比喩で説明するけど、そこでいう株主の会社の支配権と所有権のロジックとはどういう関係にあるのかという疑問が常にありました。

 ナオキが言ったように、フェネルの問題意識は、都市法というか、居住ないし住居権といった部分にあり、授業の後半部分はそちらにフォーカスしていきました。なので、後半部分は、私の興味関心からは少しずれていってしまったという印象が正直ありました。

藤森 経済学の観点から見れば、フェネルは案外経済理論をしっかりやってくれたので、これまでの復習も兼ねつつも、シカゴ大学ロー・エコならではの講義であったと感じました。

金山 この授業はコースの定理から始まりましたしね。

藤森 そうですね。本場でコースの定理を学ぶことができ、前半部分の満足度が高まりました。後半部分は、専門外ではありましたが、フェネルはよくバーベキューヤーと取引費用の例を挙げ、いかにバーベキューヤーが迷惑かを説明していました。実際、シカゴ大学の寮に我々が住んでいた時に、ある日バーベキューを中庭でしていたグループがおり、その煙に屋内の火災報知機が反応してしまい、消防車が2台も出動するという騒動が起きました。

金山 へぇ〜。

藤森 その時、シャワーを浴びていた最中の人がいたのですが、そのまま直ちに避難させられたので、髪の毛もびしょぬれの状態で着の身着のままでした……。私は、楽しみに取っておいた日本製カップラーメンにお湯を注いだ瞬間に火災報知機が鳴ったので、部屋に戻った頃にはもう麺がのびきっていました(笑)。バーベキューヤーと取引費用の関係性を、実体験を経て学ぶことができたと思います。

金山 なるほど(笑)。

  ⑵ 競争法

金山 第1週の午後に登場したのが、ピッカーでした。

藤森 ランデル・ピッカー(Randal Picker)は、シカゴ大学を卒業時に優等賞を受賞しており、さらに雑誌「Law Review」の副編集長をつとめたそうです。また、ピッカーは、リチャード・ポズナー(Richard Posner)のクラークでもあったようです。専門分野は、知的財産法、規制産業に関する法律、そしてゲーム理論のようです。ネットワーク産業独占禁止法及びトランザクションのクラスを持っていて、定期的に倒産や企業再編も教えているようでした。

得津 有名な『ゲーム理論と法』の共著者のひとりですもんね。

藤森 そうですね。講義名は、Internet Giants と題し、独占禁止法の経済学について、Google等の企業の発展と、独占禁止法との関わり合いから説明していましたが、特にゲーム理論の講義はわかりやすかったです。彼の講義の中でメインのキーワードになっていたのが、市場の二面性(two side market)でした。市場の二面性とは、皆さんがご存知のように、買い手が多く集まる場所には多くの売り手が集まって、売り手が多く集まる場所には多くの買い手が集まるということです。その時に、プラットフォームという言葉もセットで言われていましたね。プラットフォームというのは、複数の階層あるいはレイヤーと呼ばれるもの、それから産業等における、下位階層構造(基盤)というように、広義に解釈される言葉です。ですので、市場二面性というのは、あるプラットフォームを基盤とした、複数の階層での市場取引における相乗効果であると扱われることもあります。また、多くの受講者は彼の授業スタイルが好きだと言っていました。

金山 アキラは?

得津 僕はヒロミの感想と違って、独禁法という学問の基本部分の説明をあえて後回しにして、半導体から始まって、マイクロソフト、GoogleにスマートフォンといったIT産業の栄枯盛衰という歴史のストーリーを話す中で独占禁止法やそのほか著作権法、特許法がIT産業の発展にどう影響していったのかという話をしたかったのかなと感じました。普通のいわゆる独占禁止法の経済学とは、かなり教え方が違っている点が面白かったですね。

 たとえば、独占市場において生産が過少になって消費者余剰ないし社会的余剰が減少するという話は、普通、独占禁止法の初日にやるような話だと思うんですけど、4日目にようやく出てくるんですよね。Googleが広告の量を減らしたのは、広告料を吊り上げて、その分、生産者余剰というかGoogleの取り分を増やそうという戦略であるという説明をした際に、ようやく出てくる。Googleが昔よりも広告が少ないのは、別にお客さんに綺麗だと思われたいとか、綺麗だからお客さんを集めたいというだけじゃなくて、モノポリーの仕組みを使って広告料を高めるためだったというのは、目から鱗が落ちました。

金山 ランデルは、夏期セミナー講師の常連ですね。広告が多かった頃の昔のGoogleの画面を保存していて、現在の画面と対比して見せてくれたのには、驚きました。ああいう話は、アメリカで聞くと、地元の話として、とても身近に感じましたね。

 ⑶ 契約法

金山 第2週に入ると、まず、午前の授業にエリック・ポズナー(Eric Posner)が登場します。後で話があると思いますが、リチャード・ポズナーの息子ですね。その契約法の授業で印象的だったのは、利息制限法の話です。貧乏人は100ドルの需要に対する効用が非常に高く、金持ちのそれは低い、という説明をしたので、僕は「だから、貧乏人は、100ドルが喉から手が出るほど欲しいことにつけ込まれて、高利の金融業者に搾取される。こんな不公正なことはない」という趣旨の発言をしたのですが、エリックの答えは、「でもそれで助かっている人もいる」というものでした。でも、議論としては、助かっている人と犠牲になっている人の両方がいるとしたら、それを前提に、どのような政策を考えるべきかという、もう一段上のレベルでの展開がないとダメだと思います。この点は、僕自身の発言も詰めが甘かった、と反省しています。メリットとデメリットを並べるだけでは、200年以上前からフランスで、100年以上前から日本でも繰り返される議論の相と全く変わらないし、経済的分析をしても何のブレイクスルーにもならないと感じました。

 もう1つは、リーマンショックのメカニズムの説明が印象的でした。あくまでも、法的な側面を冷静に分析してくれたので、とても勉強になりました。要するに、政府が、貧乏人にも家を持たせようという、そもそも無茶な政策を実行したことが問題の根源だというわけです。不可能を可能にするようなことをすると、どこかで破綻する。だから、教訓としては、お金のない人は、家を持ってはならない、ということになります。

得津 「エリック・ポズナーは優等生タイプ」という話は日本でもよく聞くんですけれども、実際に授業を受けてみて、自分の意見を強く主張するタイプではなく、いろいろな考え方を分かりやすく整理して経済学の理屈で説明してくれるというスタイルだったので、優等生ぶりを実感しました。これは、そこで教わったことが、エリックにとっての今の契約法の基本にあたる部分だと考えることができる。伝統的な契約法の経済分析モデルの説明が初回にあったのは予想通りなんですけれど、そのあとから、ビへーヴィアル・エコノミクスの話が入ってきたのが印象的でした。エリック自身は伝統的な経済学での説明を大事にしていて、ビヘーヴィアル・エコノミクスにどっぷり浸かっているというわけではなかったのですけど、今の法と経済学において、それを無視はできないという位置づけが実感できました。ビヘーヴィアル・エコノミクスに限りませんが、エンピリカル(実証的)な話が授業にかなり入ってきていたことは印象的です。

藤森 そうですね。たしかにエリックは行動経済学についても言及していました。リバタリアン・パターナリズム(libertarian paternalism)を提唱したリチャード・セイラ―(Richard Thaler:現シカゴ大学教授)とキャス・サンスティーン(Cass Sunstein:前シカゴ大学教授、現ハーバード大学教授)は、従来のリバタリアン(自由至上主義)とパターナリズム(家父長主義)を統合しました。さらに、彼らは、“ナッジ(Nudge)”という手法を用いて、公共政策に関する実践的な具体例を挙げています。これらは、今後の法と経済分析にとって、有用な手法だと思います。

 ⑷ 会社法

金山 では、最後に、会社法。

得津 トッド・ヘンダーソン(Todd Henderson)は、The Law & Economics of Corporate Lawと題した会社法の授業で、会社の設立と会社の目的、コーポーレート・ファイナンスとリミテッド・ライアビリティ、コーポレート・ガバナンス、会社支配権市場といった会社法の主要トピックを5日間で経済学的に分析するという授業でした。ただ、会社法というのは、とくにアメリカではどこでも、法と経済学的な分析が主流になっていますので、法と経済学の会社法の授業というよりは、今のアメリカのロースクールの会社法の授業のエッセンスを詰め込んだ授業という感想を持ちました。

 スタンフォードで会社法を聴講した内容と、今回の授業とでは、違いは大きくなかったと思います。強いてあげるとすれば、スタンフォードでの授業は、判例の分析を主な内容としていた関係から、デラウェア州の話が中心になっていました。トッドもデラウェア州の話をメインに持ってきていましたけれども、他の州ではかなり違うんだよという説明もしていました。

 内容に関しては、トッドが初日の授業でオルトルイズムという会社の利他主義を肯定するという結論を語った時、実は面食らいました。シカゴと言えばロー&エコノミクス、ロー&エコノミクスと言えばエージェンシー理論。エージェンシー理論それ自体はどんな利益も目的関数にできるのですが、実際には株主の利益と債権者の利益だけのことが多いわけです。なので、てっきり、会社法が考えるのは、株主と債権者の利益だけになるのかと思っていたところ、オルトルイズムを肯定するということになったのですから。ただ、そのロジックとして用いられたのは、抱き合わせによってフリーライド問題を克服しようといった経済学の理屈なので、シカゴ的と言えばシカゴ的でした。それに、そのあと出てきたコーポレート・ファイナンス、リミテッド・ライアビリティと法人格否認の法理の説明は、本当に経済学的で、現在の会社法の主流の考え方かなという気がしました。

藤森 効用関数を用いて説明されたトッドの利他主義という考え方は、トッドの中に生きた考え方ですね。それに基づいて、我々日本の教員4人を、ディナーに招待してくれましたから……。

得津 今日の座談会には欠席されている蔡さん(蔡大鵬──名古屋大学高等研究院・経済学)も含めてでしたね。トッドから、その4人向けにメールが来て、日本からの人と日本食を食べたいということでした。そこでシカゴの日本料理をご馳走になりました。もっとも、オルトルイズムかどうかよくわからないのは、トッドは日本に来たいとおっしゃっていまして、情けは人のためならずなんですよね。

藤森 では、互恵的利他主義としましょう。それは、完全に他者のことだけを考えるわけではなくて、自分のことを思いつつ他者についても同じことを思うということですよね? ですからそういう意味において、トッドは利他主義者かもしれませんね。

 ⑸ 特別講演

金山 他にもアカデミックな行事として、いろいろな形で講演があったのですが、その中でも、契約に関するオムリ・ベンシャハー(Omri Ben-Shahar)の講演は明解で内容的にも納得できる部分が多くありました。彼はイスラエル出身で、だから彼の英語はネイティブなそれとは少し違いますがとても明晰です。学生時代にリチャード・ポズナーの本を読んで感銘を受けて、アメリカに来て勉強しようと思ったそうです。もっとも、奨学金と人脈の関係で、まずハーバードで学んだようです。

得津 オムリの講演は、マンデータリー・ディスクロージャー(強制的情報開示:情報開示義務)は役に立っていないんじゃないか、誰も開示したものを読んでないんじゃないかという話でした。法による規制のあり方は、3種類に分けられる。1つ目は、マンデータリーディスクロージャー。2つ目は、デフォルト・ルールをつくる。3つ目は、強制的に実体法で規制する。

金山 ディスクロージャーの中身は何でしたっけ?

得津 色々あったと思いますけれど、具体例の中にあったのは、説明義務履行のため、お医者さんが薬の副作用の説明を沢山書かなければいけなくて、それも今は医者じゃなくて弁護士が書いているという話でした。強行法規的に実体法的に規制することに関しては、選択の幅を狭めるということで、自由主義者からの批判は根強いわけです。デフォルト・ルールだけをつくろうと言うのが、最近、はやりのリバタリアン・パターナリズムの考え方です。でも、結局、約款に特約で1つ、「デフォルト・ルールは適用しません」という条項を入れてしまうと、デフォルト・ルールなので全部排除されてしまうということで必ずしも機能しない。そこで、説明義務の話ないしマンデータリー・ディスクロージャーの話が、どちらの陣営からも、つまり、リベラリズム的な弱者保護が好きな考え方が強い人からも、そして自由主義的・保守的な人からも、支持が集まりやすい。このため、マンデータリー・ディスクロージャー頼み、説明義務頼みになっているところがあると思うんですけれども、それが本当に役に立っているのかというと、書類だけがどんどん増えていくだけで、誰も読んでない。なので、弁護士の仕事を増やすだけで、消費者の役にも、社会の役にも立っていないということをおっしゃっていました。

オムリ・ベンシャハー教授と得津

金山 処方箋としては?

得津 彼は今あげた3つのやり方をどれも支持しないわけです、マンデータリー・ディスクロージャー、デフォルト・ルール、さらに実体法的な強行規定とも。じゃあどういうルールがあればいいのかという処方箋としては、3つ挙げていましたね。1つはアンティフロードルール(anti-fraud rule)。言ったことが嘘だったら責任を取らせるよ、というルールです。2つ目が独占禁止法。そして3つ目が、ルールではないんですけれども、実体法ルールに代わるものとして、認証や品質を証明するレピュテーションやプライベートな認証機関について語っていました。認証機関として例にあがっていたのは、フェアトレードでしたね。

金山 格付けランキングも入る。

得津 そうです。格付けもそうですし、そういうのがあれば、マンデータリー・ディスクロージャーはいらなくなる。自分が考えていたことと共通するところがあったので、研究のヒントになりました。

金山 オムリについて、ヒロミ、何かありますか?

藤森 そうですね、講演内容は、アキラの説明に特段付け加えることはありませんが、オムリは本プログラムを立ち上げた中心人物で、彼の先見性やガッツは本当に素晴らしいと思います。今年で4年目となった本プログラムですが、今後はもっと幅広く世界の国々から参加してもらいたいということでしたね。

金山 特別講演の中で、僕が感銘を受けたのはリチャード・ポズナーです。リチャードは、ロー・エコの総本山そのもののような人で、ガチガチの市場主義者というイメージがあったんですが、実際に講演を聴いてみると、全然そんなことなくて、何でもできる、たまたまロー・エコもする、という感じでした。何よりも印象的だったのは、子供のようにピュアな笑顔を見せていたことでした。やっぱり学者っていうのは、ああいう風に、素直にものを見る人でなければダメだと改めて思いました。もっともそれで迷惑を被っている同僚もいるようですが……。子供心を持っているから、講演の中で、いろんな法律家の給料も数字をあげて比較してましたね。たとえば、連邦裁判官よりもシカゴ大学教授の給料の方が上だ、といったことを臆面もなく語っていました。

藤森 リチャードの著書や“The Becker-Posner Blog”を読み、連邦裁判所判事で有名だったことは知っていましたが、やはり衝撃的だったのはJewishのLGBTの話ですよね。かつては、同性愛者として強制収容所に送られたようなLGBTが、連邦最高裁判所で勝利判決を得た時の話でしたが、今後、日本でもグローバルに社会がどんどん進行していくことを考えると、このような問題にも法律家は広く理解を示していくのかなと感じました。たとえば、渋谷区の同性パートナーシップ条例の施行を挙げると、もう既に、LGBTは、ある意味で市民権を得たわけですから、ビッグ・イシューですよね。

金山 ほかにも、比較憲法学のギンズバーグ教授の講演を聴きました。彼は、すでに僕とランチをしていたこともあってか、講演の前に、他の参加者の見守る中、流暢な日本語で僕らに話しかけてくれました。何だか特別扱いのようで、嬉しかったですね(冒頭写真参照)。

(続く)

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